ご注意*このページはウィンドウの幅をヘッダ帯部の右端に合うようにしてご覧下さい→→→→→
Fantasmagorie 異貌の現代美術展・・・そのとき、画廊は<幻の語りあう広場>へと変容する

第1回<ファンタスマゴリア

  ファンタスマはギリシア語の「幻」の意であり、アゴリアはおなじく「公共の場で語る」という動詞から来ていて、アゴラ、つまり「広場」に関連する。とすれば、ファンタスマゴリアとは「幻の語りあう広場」の謂にもなりうるものであって、これぞまさしく、見ることの自由にささげられた展覧会のタイトルにふさわしい。(パンフレット『螺旋階段』第84号/巖谷國士による特別寄稿結部)

  ここに共通するのは「目」への執着である。作家たちはみなそれぞれに自己の深淵へと旅し、そこで目の当たりにしたものを作品として提示する。空想ではない、心的写実とも呼ぶべき個人の内的世界のドキュメンタリー。それは同時にその光景を捕らえている「目」そのものをも写そうとしている。こうした作家たちによる表現の形態もバラバラの作品を、画廊がある趣意に基づいて取り合わせ一つの展覧会にして提示すること自体、まるで一種のアサンブラージュの手法のようだ。本展<ファンタスマゴリア>はいつしか全体をして大きな「目」のようなオブジェと化した。いかなる不可思議がここから生起しうるだろうか…。(パンフレット『螺旋階段』第84号/画廊あとがきより要約)
                   パンフレットは会期末まで無料送付致します→
         (郵便番号/ご住所/氏名とフリガナ/お電話番号をお知らせ下さい)


出品作家紹介
Antje Gummels, アンティエ・グメルス

アンティエ・グメルス Antje Gummels

  アンティエ・グメルスは1962年ドイツ生まれ。1987年に来日し、現在新潟県在住。13歳の頃、内なる光として感じていた何かを探しはじめたという。当時の自動デッサンによる白黒の迷宮画は、精神医学者の研究対象になった。アンティエ・グメルスは来日後、画家・絵本作家として創作発表を行ってきたが、2004年、自己の内部に光の泉を見出して以来、その<ひかり>の神秘体験を直写する「透明な自画像」シリーズを制作している。描画表現だけでなく、鏡の破片など光る物質を貼り付けたり、金属板などの反射する支持体を用いたりした作品は、眩いばかりに放射する光を増幅し、見る者を不思議な交感体験へと導く。アンティエ・グメルスは新潟を主たる活動の地とし、当画廊で関西初発表。大地の芸術祭・越後妻有アートトリエンナーレ2009では、里山のブナ林の中に目玉の描かれたオブジェが無数に浮遊するインスタレーション「内なる旅」で注目された。




Ruzena, ルジェナ

ルジェナ Ruzena

  ルジェナは1971年フランス生まれ。ボルドー近郊在住。少女期から現実逃避するかのようにドローイングに耽けっていた。二十歳の頃にアール・ブリュットについて知り、自身の表現との共通性に気付き、そのことに励まされるように、独学孤高の創作を続けてきた。ルジェナの主にインク、グラファイト、クレヨンを使って描かれる精緻な作品には、臍の緒のようなロープで互いにつながり、宙吊りになった異形の妖精たちが身悶えながら浮遊している。また、亡霊のような群像が、空間を奥底まで埋め尽くすこともある。生まれくる者も堆積した屍も、皆同じように眼孔に瞳を持たぬ異様な人形像。あたかも、錬金術師が蒸留フラスコの中に生命体を生成する秘儀のごとく、ルジェナは自己の内にある幻像を、生の壮絶なドラマとして紙の上に投影していく。日中は定職に就くルジェナは、毎日夜になると机に向かい、過酷な業のように無心に描くのだという。本邦初紹介。




山際マリ, Mari Yamagiwa

山際マリ Mari Yamagiwa

  山際マリは1971年京都市生まれ。京都市在住。テキスタイルデザイン、テディベア、キルトの作家として活動していたが、2002年に布コラージュから発展した絵画的作品=デコラティブ・コラージュの創作を開始。2005年頃からアメリカ、オランダ、オーストラリア等、海外を中心に発表してきた。2008年末にはニューヨークで、注目のセルフトート・アーティストとして個展を開催した。山際マリの作品は、謎めいたピエロに癒される裸のニンフが艶やかに油彩で描かれる。その周囲を、大音量で鳴り響く扇情的メロディーのごとく、キッチュな雑貨品(ラベルやキャップ、ゲームのパイ、ミニフィギュア、印刷物のスクラップ、リボンや紐、造花、アクセサリー等々)が埋め尽くす。海外ではジャパニーズ・アートの流行傾向の前線に位置する作風と好感を得ているが、山際マリの創作の実相は、女の本性と感情の闇の面を告白する自伝的なもので、彼女自身の壊れやすい心についた無数の傷を覆うために行われるプライベートな儀式なのである。




濱口直巳, Naomi Hamaguchi

濱口直巳 Naomi Hamaguchi

  濱口直巳は1971年大阪府生まれ。京都市在住。1998年に渡欧し、2002年ロンドンのチェルシー・カレッジ・オブ・アート彫刻科卒業。帰国後、大阪・京都を中心にインスタレーションや立体作品を発表。濱口直巳の「匿名とのコラボレーション」をコンセプトに据えたオブジェ作品の多くは、自然物や既製品、古道具市の掘り出し物、自作の造形物などを最小限に組み合わせたものである。濱口直巳の機智に富んだ意識的なアサンブラージュによって元の用途から離脱した物品は、仕掛けられた偶然の出会いを受け入れ、新たに一個のオブジェへとエレガントな変貌を遂げる。一方、貝などの材料に丹念な加工を施す作品には、地道な造形行為の果てに、予期せぬミクロコスモスが立ち現れる驚きがある。




玉本奈々, Nana Tamamoto

玉本奈々 Nana Tamamoto

  玉本奈々は1976年生まれ。1998年成安造形大卒。2010年京都造形芸術大学大学院修了。子供の頃に重い視力障害があったが、中学生のときに奇跡的に回復し、そのとき初めて見た人工的な直線の多い世界に衝撃を受けたという。そして玉本奈々は自分の生を見つめ、心の中の世界を見えるように表現できる美術の道へと進んだ。して就職後、過労から重病を患い退職し、創作に専念するようになる。毒々しいまでに鮮烈な色彩を放つ作品は、布や羊毛、ガーゼ、びっしりと縫い込まれたミシン糸などの繊維素材を用いたレリーフ状の絵画。その細胞増殖を思わせる触覚的造形は、不確かな生を展望し、生きていることの確証を作者にもたらすべく黙々と創り出される。起伏に富んだ激情的な作品の表皮の底には、深く内省的な詩情が潜んでいる。ゴツゴツ、モコモコとした物質的インパクトは、玉本奈々の想念が表す必然のマチエールなのだ。2004年現代美術の展望VOCA展(上野の森美術館)、2007年とやま現代作家シリーズ「時の中で」(富山県立近美)などに出品。また国内各地でインスタレーションを含む個展を開催。