谷本光隆 Mitsutaka Tanimoto

  谷本光隆コラージュ作品展 at ギャルリー宮脇 in 京都
     2020年214日〜229 1PM〜7PM 2/17,25休廊
     223日(日/祝)午後2時半〜記念イベント&作者来場レセプションあり(詳細はページ下部)(作者は21日夕刻、22日にも来場予定です。)

     谷本光隆は、1974年藤沢市生まれ、現在長崎市在住。美術は独学。
     2000年より発表活動を行い、20年にわたってコラージュ作品を創っている。
     活動20周年を飾るギャルリー宮脇に於ける初個展で、この10年ほどの作品から秀作を選り抜き、コラージュ絵画とコラージュブック全50点を展覧。

WEB特別寄稿 by 神保京子
< 生(き)>のままの瞳
谷本光隆とコラージュブック

谷本光隆   ナポレオンの頭部、中世やロココの時代のヨーロッパ絵画から引用された人々の顔。谷本光隆の作品には写真図版を引用したコラージュの手法が用いられ、自らの手によって描かれた背景や登場人物などが重層的に描き込まれている。数多く登場するのは、道化や王冠を被った人物たち。ふたつの象徴的なモティーフは、王冠(crown)を被る王が、道化(clown)を演じるトリックスターを暗喩するかのように韻を踏み、どこかユーモアな様相を呈しながら、お伽話の入口へと誘うかのようである。人物描写によるドローイングの筆致は、素朴でありながら異国情緒を湛えていて、彼の出自を知らなければ、それが日本に生まれ育った作家によるものであるとは気づかれないかもしれない。そしてそこには、国籍も地位も時代も飛び越えた、自由な発想の飛翔がある。絵の具に込められた、境界をはみ出すエネルギーは、時に明晰なラインの表出を拒絶し、素材となる写真の輪郭を逸脱した奔放さで、2次元の平面性から3次元の空間領域へと溢れ出て、世界のカオスをなぞらえる。そこから沸き上がるのは、止めどなく放たれる、創造への欲求である。
  魅力的なのは、闇と光を抱えた諧調を纏う、本を舞台とする作品群である。イメージの支持体となるページの上の、異国語による細かい印字は、英語や、時にドイツ語、フランス語、フィンランド語等で綴られているが、それらは殆ど意味を成さない。そしてふいに、作家の母国語によって投げ入れられた、「自由」、「悦楽」、「逃げて」、「流血の悲劇」といった言葉の片鱗が、我々の網膜を刺激する。
谷本光隆   書籍全体の印象を司る色彩には、ゴールドや鮮やかなブルー、黒やピンクなど、1冊ごとにテーマカラーのように基調となる色が存在する。墨色に刻印された活字の羅列の上に、切り取られた写真がコラージュされ、更に鮮やかなコントラストを成す色調で図像が描き出されることによって、それらは、元の複製物としての無機質かつ無表情な印象から解き放たれ、生き生きと目覚めた唯一絶対のオブジェと化してゆく。谷本によって別の生き物と化した書物は、時として、矩形を基調とする「本」の体裁さえもが変形させられ、執拗に繰り返される創作のエネルギーによって、ページは歪み、本体は湾曲し、もはや原型を留めない。自由に行き来することのできる立体的な稼働空間の連なりの中で、そもそもそこに存在していた筈であるパロルによる物語性は、軽やかな被膜によって覆われ、分断されることによって、ストーリーによる論理的な連続性が覆されて、パノラミックな映像としての重層感に裏打ちされた、マッシヴな物体へと変貌してしまうのである。
谷本光隆   独学で描く作家はアール・ブリュットという言葉で自らを言い表す。時に思い通りには描くことのできない映像が、既存の写真によって補填される。しかしその不自由さ、もどかしさこそが、無意識のうちにイメージを生み出す起爆剤となって色彩と線を操り、召喚された図像と図像とが偶然と意外性に満ちた邂逅を繰り広げて、我々の眼前で炸裂する。
  シュルレアリスムの先導者、アンドレ・ブルトンは語る。「色彩へと向けてすべてを虹に結びつけるこの獰猛な眼」* が、世界の不可思議を瞥見できる唯一の目撃者なのだと。恐らく谷本光隆こそは、この無垢で<生>のままの、「野生の眼」を兼ね備えた、選ばれし表現者なのだろう。
*アンドレ・ブルトン『シュルレアリスムと絵画』巖谷國士訳、人文書院、1997年、p17

神保京子(じんぼ・きょうこ)
東京都写真美術館学芸員として勤務した後、東京都現代美術館を経て、2011年より東京都庭園美術館学芸員。1999年にはロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館に滞在し、19世紀の写真家、ジュリア・マーガレット・キャメロンの調査を行う。主に写真やシュルレアリスムをテーマに展覧会を企画。手掛けた展覧会には、「川田喜久治 世界劇場」「シュルレアリスムと写真 痙攣する美」「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」等がある。



谷本光隆

谷本光隆, 南野梓, アズールヴェール         作者来場、記念イベント開催!
223日(日/祝)午後2時30分〜開演
パリの国立高等美術学校、白夜祭、アートギャラリーなどでアートとの共演を展開しているコンテンポラリー音楽デュオのアズールヴェール(バイオリン南野梓+ギター谷村武彦)が、谷本光隆の作品のために作曲した無機質なコラージュ組曲『静かな横顔のみつめるもの』を、ギャルリー宮脇の螺旋階段を舞台に演奏披露するアートパフォーマンスを行います。そのあと作者の谷本さんを囲んでささやかなレセプションを催します。どなたでもご参加いただけます。どうぞお誘い合わせお越しください。
(作者は2月21日夕刻と22日にも在廊予定です。)


谷本光隆
オンラインギャラリー開設予定 ★ このページにて今後、谷本光隆のコラージュ作品を順次紹介していきます。