![]() ★ WEB特別寄稿 by 神保京子 1946年、島根県に生まれた作者は、1977年に独学で木口木版画による作品の制作をはじめた。以来今日まで、作者は同じ手法とテーマを追及し続けている。 齋藤修の木版画は、硬い樹木である椿を版木として、立ち上がった木を垂直に裁断した 再びギリシア語に由来する宇宙を表す<コスモス(cosmos)>とは、元来、「秩序」を意味し、「混沌<カオス(chaos)>」に対立する概念であるという。壮大なスケールの秩序によって均衡を保つマクロコスモスとしての天体。この巨大なコスモスの、点としての存在でしかない地球という星の上では、海と大陸が出現し、あらゆる生命体が誕生した。地上のミクロコスモスから人類は天を目指そうとするが、神によって与えられた異なる言語によって、築き上げられたバベルの塔は崩壊し、地上はカオスで満たされた。天に瞬く未踏の星々、銀河やブラックホール…。科学の進歩を踏まえても、未だ手に触れることの叶わぬ未知の天空は、人類にとっての神秘である。 ![]() 稲垣足穂は、世界が無数の薄板の重なりによって構成されるという「薄板界」を想起した。それぞれに異なる時空において各々の歴史を刻んできた物質たちは、薄い平面の層へと振り分けられ、掌ほどの版木の上に集結する。宇宙の彼方からその存在を知らせる、明滅する星々の光は、地上界の産物である水晶と樹木の上で重ね合わされ、さらに支持体である薄雁皮紙の薄い皮膜のうちに濃縮されて、華麗な重層空間が摺り出される。そこでは、地上と天体の無限遠の距離感が圧縮されて、ひとつの平面に整列し、濃密なるカオス空間が現出している。齋藤修作品の快楽は、限りない天空のスケール感と、掌の小宇宙とを行き来する、時間と空間の巨大かつスリリングな振れ幅を感得させる、そのダイナミズムの中にある。 神保京子(じんぼ・きょうこ) 東京都写真美術館学芸員として勤務した後、東京都現代美術館を経て、2011年より東京都庭園美術館学芸員。1999年にはロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館に滞在し、19世紀の写真家、ジュリア・マーガレット・キャメロンの調査を行う。主に写真やシュルレアリスムをテーマに展覧会を企画。手掛けた展覧会には、「川田喜久治 世界劇場」「シュルレアリスムと写真 痙攣する美」「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」等がある。 ![]()
齋藤修 木口木版画シリーズ
『 齋藤修 WWW カタログ ★ 題にポインタを重ねるとイメージが表示されます。 各限定10部 齋藤修 Neverland-Chaos I 38.5x36cm 齋藤修 Neverland-Chaos II 36x34.5cm 齋藤修 Neverland-Chaos III 30.4x23cm 齋藤修 Neverland-Chaos IV 36.4x34cm 齋藤修 Neverland-Chaos VI 21.4x27.4cm 齋藤修 Neverland-Chaos VII 33.2x33.6cm 齋藤修 Neverland-Chaos VIII 23.3x33.8cm 齋藤修 Neverland-Chaos IX 36.3x34.3cm 齋藤修 Neverland-Chaos X 34.8x31.4cm ★ リーフレット掲載特別寄稿「星と石の非永遠」 by 寮美千子(作家・詩人) |