齊藤彩 Aya Saito  at ギャルリー宮脇 in 京都 最終更新日2025.3.5

齊藤彩
震えるような繊細さと衝動に駆られたような大胆なタッチが共存する作品は、
言葉が生まれる以前の始原的なイメージを映し出す。
そのあまりにも本能的な創造性によって、
そこには野生の「絵画」が生々しく立ち上がっている。



齊藤彩直近活動のお知らせ

齊藤彩絵画展「或る日の女」
会場・iTohen Gallery Books Coffee(大阪市北区本庄西2-14-18 1F)
会期・2025.3.8〜3.24 土日月のみ開店 11-18h
iTohen 天神橋筋六丁目駅下車徒歩10分
3.8sat & 3.9sun
アーティスト来場スペシャルデー
齊藤彩「この日、このとき、えがく人」
★ライブペインティング 11:00-14:30 (随時)カフェのウィンドウや壁に絵を描きます。       
★おやつの時間 15:30-16:30(ドリンク含む参加費1000円)画家とお茶を飲みながらお喋りしましょう。
おやつの時間は席に限りがありますので事前にお申し込みください→ iTohen Tel 06-6292-2812 http://www.itohen.info/contact/


齊藤彩の絵 at パンと喫茶 Do.
京都市左京区北白川東久保田町10-1 1F(TEL075-746-2301)
パンと喫茶 Do. 銀閣寺道北へスグ白川通東側
展示期間・2025.3.14〜4.27 午前8時〜午後4時(月休)
趣ある喫茶空間に齊藤彩の迫力ある秀作4点が展示されています。
「do.」はギャラリーではありません、喫茶&パン屋さんです。お店をご利用の方が作品をご覧になれます。
齊藤彩の絵のある場所でおいしい時間を過ごしてください。

第1回
「めぐりめぐる絵画-齊藤彩個展」
〈2023-24年新作より〉
会場・ギャルリー宮脇
会期・2025.4.11〜4.27 月休 13-18h
公開対談 &作者懇親会
4月12日(土)午後3時半〜
登壇者:水沢勉(美術史家・美術評論家)仲野泰生(京都場館長・元川崎市岡本太郎美術館学芸員)
対談タイトル齊藤彩 繰り返される「タブラ・ラサ」>
齊藤彩という底知れぬ創作力を秘めた画家の秘密を探りたいと思います。なぜいつもあれほどに新鮮で生き生きとイメージが立ちあがって
くるのでしょうか。白紙(タブラ・ラサ)への感受性を作品のそばで確認し、その奥深さを味わいたいと思います。
作者の齊藤彩も来場し、講演会終了後はささやかな懇親の時間を設けます。
要申込(定員30名先着順・参加費1000円)ギャルリー宮脇まで氏名・連絡先・参加人数をお知らせください。必ず確認の返信を差し上げます。
Tel 075-231-2321(留守電対応あり) E-mail info(a)galerie-miyawaki.com


齊藤彩個展特集パンフレット『螺旋階段』第118号発行
特別寄稿
水沢勉(美術史家・美術評論家)
生まれ、死んで、生まれる
 齊藤彩 繰り返される「タブラ・ラサ」 

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齊藤彩WEBギャラリー

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  iTohen出品作品             新作展出品予定作品             旧作セレクション
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齊藤彩プロフィール
齊藤彩は1981年東京生まれ、横浜市在住
齊藤彩, Aya Saito 2003年  女子美術大学洋画専攻卒業・美術館収蔵作品賞受賞
2004年  第1回フォイルアワード・グランプリ
     GEISAI 5 奈良美智賞
2005年  第25回グラフィックアート一坪展グランプリ
     齊藤彩作品集「だるまさんがころんだ」出版(リトルモア刊)
2008年  COLOR IMAGING CONTEST 勝井三雄賞
2015年  ドイツ・ライプチヒ Das Japanische Haus.e.V 滞在制作と発表
     横浜市民ギャラリーあざみ野で大規模個展「齊藤彩2003〜2015」
2018年  「高橋コレクション 顔と抽象」清春芸術村(山梨県北杜市)に出品
     京都・ギャルリー宮脇の常設作家特集展「THE ESSENCE」に出品
2021年  齊藤彩×中屋敷智生2人展「歩く―感覚と思考の交差点」(武蔵野美術大学鷹の台キャンパス)
     個展「ニケキュレーターズセレクション#5 齊藤彩展」(女子美術大学杉並キャンバスガレリアニケ)
     アートフェアART OSAKA 2021(会場:大阪市中央公会堂 )ギャルリー宮脇ブースに個展形式で出展
2022年  齊藤彩×中屋敷智生2人展「歩く―彷徨の記憶をはぐくむ時間」(ギャルリー宮脇)
     アートフェアART OSAKA 2022(会場:大阪市中央公会堂)に齊藤彩×西脇直毅2人展形式で出展
     和歌山県立近代美術館コレクション展2022秋冬「特集:田中恒子コレクション」に油彩ドローイング12点展示
     "京都場"で個展(ギャルリー宮脇共催企画)を開催しNHKテレビ日曜美術館アートシーンで紹介される
2024年  齊藤彩作品名付けプロジェクト展―絵を読む タイトルは必要か―(銀座・永井画廊)
     世田谷区立経堂小学校5年生に授業「齊藤さんの作品に題名をつけよう!」(ゲストティーチャー・杉浦幸子)
2025年  3月個展「或る日の女」(大阪iTohen)
     4月ギャルリー宮脇で新作展

仲野泰生(元川崎市岡本太郎美術館学芸員・京都場館長)のテクストを読む。
Art Osaka 2021(2021年7月、大阪市中央公会堂)ギャルリー宮脇個展ブース出展への寄稿



WEB連載寄稿 by 神保京子 ④
「女子美ガレリアニケキュレーターズセレクション#5 齊藤彩展」 に際しての書き下ろしテクスト

齊藤彩──増殖し続ける曲線とドット

齊藤彩  夥しい数の線描と得体の知れない物体の塊、色彩と色彩とのあでやかな絡み合い。円形の繰り返しや点描によって一面が埋め尽くされたマッシヴな空間──。抽象性に支配されたイマージュとともに具象の気配を宿すのは、ポートレイトと顔の輪郭、そして眼や手といった、分断化された身体の部分である。肉厚の絵具は、表面へ繰り返される執拗なタッチによって矩形の紙を幾重にも覆い、色彩と線がうねりとなって、画面上へと一気に放出されていく。
 齊藤彩の作品はあらゆる言語を拒絶する。そこには一切の「回答」がない。ただあるのは、自動発生的に現出する無数の残像である。絵画空間の手前では、底なしの無意識が、ただ放出されることを待ちわびながらひしめき合っている。齊藤彩, Aya Saito作家は、後から後から湧き出てくる無数のイマージュと戯れながら、未開の魂を掴もうとしているのだ。
 ただひたすら描くという創造の快楽が快楽を呼び覚まし、作家の指先からは、名付けようのない未知の図像が次々と投げ出されてゆく。それは生み出されてみなければ作者自身にも預かり知れない世界なのだ。一旦身体から引き離された創造物はその瞬間から、作者にとってもまた不可思議な他者となる。そこには恣意的な意図など存在しない。なぜなら、命の誕生へと分裂を繰り返す細胞のように増殖し続ける図像発生の在りようが、極めてオートマティックな様相を呈しているからである。そして創造者は、予定されない空間に向かって、それぞれの物体や人物と初めての逢瀬を重ねるように、何かが憑依した交霊術師のように、一心不乱に「描き続ける」のである。
 大型紙の上に描かれた作品には、主に油絵具やアクリル、時に鉛筆等が用いられ、質感の異なる多彩な表面をかたち造っている。齊藤彩, Aya Saito特に油絵具はその肉厚な重量感によって特有の存在感を主張し始める。絵具は塗り重ねられることによって一定の奥行きを創り出し、濃密な空間を眼前に披瀝してゆく。色彩は、混ぜられることによって透明度を失くしてゆくのとは裏腹に、鮮やかな耀きを留めている。作家のアトリエに足を踏み入れると、部屋の片隅にある机の上に置かれたパレットには、赤、白、黄色、青、黒と、原色の絵具が太い弧を描きながら絞り出されたままになっている。驚くべきことには、絵具が新たな色彩を生むのはこのパレットの上ではなく、作者の掌なのだという。パレット上に絞り出された絵具は、作者の手の上で混ぜ合わされ、直接紙面上に叩き付けられてゆく。色彩が淀みなく鮮やかな色調を保ち得るのは、こうした作者の、野生児のような営為によるものだったのだ。
齊藤彩, Aya Saito  オフホワイトの被膜のようなクロッキー用紙の上に、大学在学中から卒業当初描かれていた油彩によるシンプルなドローイングには、どこか愛嬌のある、夢に出現しそうな奇怪なかたちをした人物(のような生命体)が登場する。これらのドローイングが必ずやシュルレアリストたちの関心を惹いたであろうことを想起させるのは、再び「優美なる死骸」の生成のように、幾人もの他者が関わることで迸発するデペイズマンの刺激的要素を、それら生命体が宿しているからだ。齊藤彩は、他者が関わることで意思なきところで召喚された偶然による誘発を、自らの内部で無意識のうちに生み出してしまうのだ。それは子供のように無邪気な、極めて純度の高い感性によって招かれる。
齊藤彩, Aya Saito  幼い頃から絵を描くことが大好きだった齊藤は、小学生の頃、近所にあった絵画教室へ通うようになった。そこは「太陽の画家」と呼ばれた利根山光人の子息が教える教室で、光人も時折子供たちに交じって絵を描いていたという。さらに家業を継いでいた齊藤の祖父は、風景を好んで描く日曜画家だった。楽しそうに描く祖父の傍らで、幼い日の齊藤は某かの波動を享受していただろう。
 止めどなく溢れ出るイマージュの洪水をひたすら描き留める齊藤の絵画には、どこかアール・ブリュットの表現者たちに通ずる野性味と素朴さが感じられる。しかし通例の解釈に従えば、それはアール・ブリュットの類いではないだろう。齊藤彩は女子美術大学で学び、美術史や絵画の基礎を身に着けた、いわば「教育を受けた」アーティストである。一方往々にして知識や技術を得た表現者たちは、そのことによって童心を失い、無意識下における想像力の発露が徐々に阻害されてゆく──というディレンマに突き当たることになる。齊藤彩, Aya Saitoしかして彼女の瞠目すべき個性とは、子供のようなあどけなさを湛えながらも、人物の表情、そして一連のドローイングや絵画作品の内に垣間見られる洗練さやセンスといった、一見対極にあるもの同士の奇蹟的な共存の内にある。
 展覧会場を飾る、この充満する絵画空間は、作家が内に秘めるエネルギーのたゆまぬ持続によってもたらされる。アーティストであると同時に勤め人である齊藤彩は、日々の実務の傍らで、絵画と向き合う時を持つ。「1日中話さないことより絵を描かないことの方がつらい」と語る彼女にとって、「描く」という行為はもはや呼吸することと同義である。齊藤彩の生み出す視覚世界は、日常生活の中で鈍化してしまった私たちの感覚や意識を「<>のままの」広野へと導いてくれる。それは両大戦間に挟まれた硬直した時代の中で生を希求し、無意識を志向することによって精神の自由と解放を目指した、かのアンドレ・ブルトンが唱えた「野をひらく鍵」となって、我々が生きるこの不穏な世界へと、立ち昇ってくるのである。


神保京子(じんぼ・きょうこ)
東京都写真美術館学芸員として勤務した後、東京都現代美術館を経て、2011年より東京都庭園美術館学芸員。1999年にはロンドンのヴィクトリア・アンド・アルバート美術館に滞在し、19世紀の写真家、ジュリア・マーガレット・キャメロンの調査を行う。主に写真やシュルレアリスムをテーマに展覧会を企画。手掛けた展覧会には、「川田喜久治 世界劇場」「シュルレアリスムと写真 痙攣する美」「岡上淑子 フォトコラージュ 沈黙の奇蹟」等がある。

クロッキー用紙油彩ドローイングwebギャラリー  ↓  

齊藤彩, Aya Saito WEB連載寄稿 by 神保京子
① <>のままの瞳──谷本光隆とコラージュブック
② 西村一成──獰猛な野生と繊細なエロスの共存
③ 齋藤修──無限遠の彼方より


仲野泰生(元川崎市岡本太郎美術館学芸員・京都場館長)のテクストを読む。
Art Osaka 2021(2021年7月、大阪市中央公会堂)ギャルリー宮脇個展ブース出展への寄稿